映画ジャンキーのつぶやき -2ページ目

ふたつの光、ひとつの歌声。

【Ray / レイ】

<2004年・アメリカ>
●監督/テイラー・ハックフォード
●出演/ジェイミー・フォックス、ケリー・ワシントン 他


故、レイ・チャールズの半生を描いた伝記映画。
レイを演じたジェイミー・フォックスは、本作で
今年度のアカデミー主演男優賞に輝いている。

貧しい家庭に生まれたレイは、緑内障で視力を
失ってしまうが、母の教えに生きる力を授かる。
やがて音楽と出会ったレイは、その才能を開花
させ、ソウルミュージックのスーパースターへと
登りつめていく…。

レイ・チャールズの曲については
「わが心のジョージア」「愛しのエリー」
ぐらいしか知らないという情けない状態で見たが、
十分に楽しめた。
やはり特筆すべきは、ジェイミー・フォックスの
演技だろう。生前のレイをよく知らない僕でも
「こういう人だったんだろうな」と感じさせる
しゃべり、しぐさ。ピアノは何とフォックス自身が
弾いているとのことだが、歌はどうなんだろ、
これはさすがに吹き替えか?
ただいつもこの手の、実在の人物を扱った映画で
感じるのは、その演技が素晴らしいものであれば
あるほど、それがモノマネとしてのうまさなのか、
純粋な演技としてのものなのかの境界があいまい
になってしまうということだ。
その人物のファンと、そうでない人が
見るのとでも、印象はかなり変わって
くるだろうし。

映画の中で描かれているレイは、
神様でも聖人でもない。
金にもうるさければ、
麻薬や女にも溺れる、ひとりの男だ。
上から見下ろすのでなく、
常にレイの目線で描かれる物語は、
生身の人間レイ・チャールズを浮かび
上がらせている。

加えて素晴らしいのは、レイを支える女性たちだ。
光を失った少年のレイを「施しを受ける人間に
なるな」と厳しい愛情をもって育てた母。
そして、麻薬に自分を見失いそうになったレイに、
何よりも大切な音楽の存在を気づかせた妻。
レイの成功は、
このふたりの存在なしには語れない。
音楽がテーマである一方、この映画は
レイとふたりの女性の、愛の物語でもあるのだ。

最後に、この映画を見た人が
必ずするであろうこと。
それはレイ・チャールズに会いにCDショップへ
走ること。…ってことで僕も行ってきます。


■個人的ハマリ度 ★★★★(★5つが最高)
 
タイトル: Ray / レイ

会いにゆきます。たとえ…

【いま、会いにゆきます】

<2004年・日本>
●監督/土井裕泰
●出演/竹内結子、中村獅童 他


主演のふたりがこの映画の共演がきっかけで
結婚に至ったってことで「いま、愛に生きます」
なんてもじられる今日この頃。
実はだいぶ前に原作を読んでたんだけど、
今回DVDを見るまで細かい内容は忘れていた。
最後まで見て、そうか、こうだったんだという
感動とともに、ようやく記憶再生。
記憶力、やばいかも…。

6歳の息子と暮らす巧(中村獅童)の前に、
ある日亡くなった妻の澪(竹内結子)が現われる。
1年後の雨の季節に戻ってくると、
ふたりに言い残していた澪は、
なぜか生前の記憶を失っていた。
こうして再び3人一緒の生活が始まる…。

始まって数分で、画面に引き込まれたのは、
その映像の美しさのせいだ。
しっとりとした日本の梅雨の情感が
隅々にまで行き渡っている。
今の季節に見ると、より臨場感が増すだろう。

主演のふたりも好演。
獅童は病を抱えながらも、澪への一途な思いを
貫く男を、抑えぎみな演技で表現している。
これまで、ほえたり、暴れたりといった
イメージが強かった彼の懐の深さに驚いた。
ただ竹内結子とのベッドシーンは、妙な妄想が
入ってしまい、集中できなかったが。(笑)

雨の季節の終わりとともに、澪は再びふたり
の前から姿を消し、夢の日々は幕を閉じる。
なかなかいい映画だったなあと思っていると、
これまで巧の視点で進んでいた映画は、
澪の視点に移って…そう、本当の
クライマックスはここからだったのだ。
詳しくは避けるが、えー!という驚きの真実、
前半でやや?だった部分が、まるでジグソーパズル
が埋まっていくように見えてくる快感、
そして、じわじわと押し寄せてくる、
胸をしめつけられるような切なさ。
脚本、演出の職人芸が見事にはまった、
圧巻のラスト15分。
忘れがたい余韻の中に、僕はまだいる。

いま、会いにゆきます。
この一文に込められた決意は、
たとえようもなく深く、悲しい。
でもそれは、梅雨明けの青空のように
キラキラとした日射しを、見る者の
心に注いでくれる。

■個人的ハマリ度 ★★★★(★5つが最高)
 
タイトル: いま、会いにゆきます スタンダード・エディション

愛と哀

【ピアニスト】

<2001年・フランス・オーストリア>
●監督/ミヒャエル・ハネケ
●出演/イザベル・ユベール、ブノワ・メジメル 他


2001年のカンヌ映画祭グランプリ受賞作。
主演男優、女優の両賞も獲得している。

音大のピアノ教師であるエリカは、母親と
ふたり暮らし。自分を縛りつける母親との間には
いさかいが絶えない。そんなエリカに惹かれた
青年ワルターは彼女に近づこうとするのだが…。

と書くと、普通の恋愛もののようにも思えるが、
とてもそんな一筋縄でいく映画ではない。
エリカはかなり屈折した内面の持ち主だ。
口は達者だが、これまで男との経験はほとんど
なく、ワルターの猛アタックにもどう対応して
いいのかわからない。
ストレスがたまると自傷行為に走る。
そしてそれはある性癖とも繋がっている。
ズバリ言うと「マゾッ気」。
そのことをワルターに告白するくだりは、
これってコメディ?と思うくらい、
おかしくて仕方なかった。
葬式とかの笑ってはいけない状況であれば
あるほど、おかしいというような感じ。
だがそのおかしさの中には、エリカが抱える
どうしうもない業が潜んでいるのだが。

現在のエリカの人格を形成したのが、母親との
歪んだ関係にあることは見てとれるが、
彼女自身がその事にどこまで自覚的である
のかはわからず、また母親と離れようともしない。
でも、現実にこんな母娘ってけっこう
いるのかもしれない。
ワルターを愛したいのに、やり方がわからない。
愛してほしいのに、受け入れてもらえない。
その姿は哀れとしか言いようがない。

エリカの不安定な心を象徴するかのように、
画面には常に、すぐ先に何かとんでもない
事が起こるんじゃないかというような
緊迫感が漂っている。
BGMもピアノの演奏音を除いてほとんどない。
だからか、見終わると頭の中がどんよりと重い。

決しておもしろいとはいえないが
この映画が残すインパクトは、
やはり並の映画を凌駕している。


■個人的ハマリ度 ★★★(★5つが最高)
 
タイトル: ピアニスト

はるか遠くの、隣の出来事。

【誰も知らない】

<2004年・日本>
●監督/是枝裕和
●出演/柳楽優弥、YOU 他


個人的には、去年劇場で見た中では
ナンバー1だった映画。
もう一度確認したくなり、DVDで鑑賞。
劇場の暗闇の中で見るのもいいけど、
部屋でひとり、じっくり向き合うと
より深く、物語が染みてくるように思う。

母親に置き去りにされた4人の
子供たちが、その後どう生きたか。
実際にあった事件がモチーフということもあり、
明るく見える画面の中にも
言いようのない緊張感が漂う。
はじめは無邪気に日々を過ごしていた子供たちの
表情が次第にすさんだものになり、力を失って
いくのが、痛みとともに伝わってくる。

ドキュメンタリー出身の監督らしく、
演出はどこまでも自然で、
演技めいた芝居など見られない。
誰かを悪者に仕立てて、責任を追求する
こともなければ、正義の味方ヅラした
ヒーローが出てくるわけでもない。
置き去りの当事者である、YOU演じる母親に
対してでさえ、一元的なキャラには描いていない。
だからこそ、観客は子供たちの一瞬の表情に
ハッとさせられ、その暮らしが、まるで
すぐ隣にあるシーンのように感じるのだ。

だが、子供たちと周囲との溝は
大きく深くなってゆき、悲劇は起こる。
この映画に、答えなどない。
ただの事件の描写と見るか、
そこに何らかの希望を見い出すのか。
答えがあるとすれば、それは見た者の、
それぞれの現実世界とのキョリになって
現れるのかもしれない。

「ワンダフルライフ」「ディスタンス」
そして本作と、是枝監督の作品を見てきたが、
いずれも良かった。
どうも作風が好みに合うようだ。
新作はなんと初の時代劇!「花よりもなほ」。
是枝タッチの時代劇って想像つかないけど、
来年の公開が今から楽しみで仕方ない。


■個人的ハマリ度 ★★★★★(★5つが最高)
 
タイトル: 誰も知らない

TUBEの謎、判明。

【ブルークラッシュ】

<2002年・アメリカ>
●監督/ジョン・ストックウェル
●出演/ケイト・ボスワース、ミシェル・ロドリゲス 他


ひとあし早く夏気分を満喫しようと鑑賞。
青い空、広がる海、砕け散る波、そして、
サーフィンに夢を追う女の子の、ひと夏の恋。
いやーいいねえ。何も考えずに見るには、
もってこいの映画だ。

天才サーファーのアンは、世界最高レベルの
サーフィン大会に向けてトレーニングに励む日々。
だが、かつてサーフィン中に事故に会った時の
恐怖心をぬぐい去れないでいた。
そんな折、バイト先でフットボールの花形選手と
出会ったアンは、次第に彼に引かれていく…。

と、ストーリーはもうこれでもかというぐらい
青春映画の定番なのだが、それでいいのだ。
こういう設定に、複雑な展開を盛り込んでも
浮いてしまうだけ。
それに、この映画の本当の主人公は、
思わずオー!と声を上げてしまいそうになる大波
と言ってもいい。
クライマックスのやつなんて、見ていて
背筋がゾクッとする快感に襲われる。

アングルも多彩で、どうやって撮ったんだ?
っていう驚きの連続。
メイキングを見ると、当たり前だけど、
カメラマンも海に潜ってるんだよね。
映画のMVPはこのカメラマンかもしれない。
あんな中でも全くぶれずに撮影できる、
カメラの進化もすごいもんだ。

そして個人的にちょっとうれしかったのは
TUBEの意味がわかったこと。
夏といえばTUBEのTUBE。
以前、何でバンド名がTUBEなんだろ?
もしかして浮き輪から来てるのかな?
なんて的外れなことを思ったものだが、
実はサーフィン用語で、
大波が迫り海面に落ちてくる時にできる、
空洞状態のことなんだそうだ。
納得。80ヘェークラスのトリビアだった。

暑い夏の日には、目にも涼やかなBGVとして
バックに流しておくのもいいかもしれない。


■個人的ハマリ度 ★★★(★5つが最高)
 
タイトル: ブルークラッシュ

向き合う、解き放つ。

【うなぎ】

<1997年・日本>
●監督/今村昌平
●出演/役所広司、清水美砂 他


カンヌ映画祭のパルム・ドール受賞作。
「楢山節考」に続いて二度目の栄誉を、
今村監督にもたらした。

妻殺しの刑を終えて出所した男(役所広司)は
刑務所内で取った資格を元に、
川辺に理容店を開く。
ある日、自殺志願の女(清水美砂)を助けた
ことから、女は店を手伝うようになる。
しかし、やがて刑務所で一緒だった男が現れて…

役所広司ははやり何をやらせてもうまい。
過去にひきずられ、心を閉ざした男を
無表情で見事に演じている。
対する清水美砂はものすごい体当たり演技。
これでもか!ってぐらいの脱ぎっぷりだ。(笑)
このふたりに加え、柄本明や哀川翔など、
脇役陣にもひとくせある連中がそろっている。

映画のタイトルになっている「うなぎ」は
男が唯一心を許している相手として描かれる。
男はじっとうなぎをみつめ、自分の内面を
聞かせるように語りかける。
狭い水槽の中に閉じ込められたうなぎ。
おそらくそれは、男の姿そのものなのだろう。
映画の終盤、過去の自分を吹っ切った男は、
うなぎを川に返す。
そこから新しい男の物語が始まるのだ。

切実なテーマを扱っている割には、
どこかひょうひょうとしたユーモアが
漂っているのは、監督の演出の味なのだろう。
不思議な余韻のある映画だった。


■個人的ハマリ度 ★★★(★5つが最高)
 
タイトル: うなぎ

センセイの鞄の中

【センセイの鞄】

<2003年・日本>
●監督/久世光彦
●出演/小泉今日子、柄本明 他


原作を読んで、かなりハマッたので、
ドラマも続けて鑑賞。
※原作の感想はこちら

http://katsuzi-junkie.ameblo.jp/

いやー、なかなかのハイクオリティ。
WOWOWで放送されたものだけど、
劇場でかかっていてもなんら
不思議ではない出来だ。
さすがは向田邦子のドラマをはじめ、数々の名作を
送りだしてきた久世さんの演出。

小説を読んでいた時から、主人公の月子さん役は、
小泉今日子以外あり得ないってぐらい
キャスティングは合ってると思ってたけど、
見ると、やっぱりその通りだった。
ちょっとスレて、あっけらかんとした中に、
寂しさや人恋しさを隠している。
そんな月子さんの印象と小泉今日子が
見事にだぶる。
柄本明は見る前は、ちょっと年齢が若すぎるんじゃ
ないかと思ってたけど、意外にひょうひょうとした
キャラがマッチしていた。
センセイの妻役の樹木希林も好演。笑い茸を
食べるシーンではマジで爆笑してしまった。

行きつけの居酒屋やセンセイの家のセットなどの
美術関係も含めて、原作が持つ、のんびりとして
ユーモア漂う世界を見事に再現していると思う。
原作ファンの人の期待を決して裏切ることのない
仕上がりだ。
ラストは原作にはないシーンがプラスされている
のだが、なるほど、そういう解釈もあるなあと
うなずけた。

タイトルの「センセイの鞄」だが、結局最後まで
何が入っていたのかは明らかにされない。
もしかしてそれは、月子さんのセンセイへの
恋心だったのかもしれない。なんてね。(失笑)

特典のメイキングでは、小泉今日子の素の声も
たっぷりで、かなり充実の内容。


■個人的ハマリ度 ★★★★(★5つが最高)
 
タイトル: センセイの鞄



ミリオンダラーの輝き、そして…

【ミリオンダラー・ベイビー】

<2004年・アメリカ>
●監督/クリント・イーストウッド
●出演/ヒラリー・スワンク、モーガン・フリーマン 他

公式サイトはこちら
http://www.md-baby.jp/

今年度のアカデミーで、作品賞、監督賞、
主演女優賞、助演男優賞の主要4部門を
制覇した話題作。
小学生の時に具志堅用高に魅せられて
以来のボクシングファンの僕が、一番楽しみだった
映画。ワクワクしながら見てきた。

序盤、ジム会長のフランキー(イーストウッド)に
トレーナーを依頼するマギー(スワンク)だが、
フランキーは首を縦に振らない。
しかし、ジム雑用係のスクラップ(フリーマン)の
助言もあって、マギーを指導することになる。
それぞれに複雑な家庭の事情を抱えたふたりは、
やがて親子のような絆で結ばれ、
マギーはボクサーの階段を駆け上がっていく…。

芸達者3人の演技が、やはりすごい!
ヒラリー・スワンクは、体つきから動きまで、
まるでボクサーそのものだ。
役づくりのために相当なトレーニングを
行ったのは間違いない。
イーストウッド、そしてフリーマンも、
老境にさしかかった男の誇りと哀愁を
見事に演じ切っている。
ボクシングシーンは臨場感に満ちた
カメラアングルで女性ということを
感じさせない迫力。
光と影が絶妙なコントラストを見せる、
照明の使い方もバツグンだ。

物語は後半、まったく予想
しなかった展開を迎える。
これはかなり賛否の別れるところだと思うが、
僕は思わず声をあげそうな衝撃を受けた。
そして、胸をえぐられるような時間の後に
待っていた結末は…。
見終わって何より感じたのは、
これはまぎれもない、愛の物語だということだ。

エンドロールが終わって明るくなっても、
水を打ったように静かな場内が印象的だった。
好きとか嫌いを超えて、
必見の映画だということは断言できる。



■個人的ハマリ度 ★★★★(★5つが最高)

原作は短編↓
著者: F.X.トゥール, 東 理夫
タイトル: ミリオンダラー・ベイビー




シンプル・イズ・ストロング!

【フレンチ・コネクション】

<1971年・アメリカ>
●監督/ウィリアム・フリードキン
●出演/ジーン・ハックマン、ロイ・シャイダー 他

ニューヨークの刑事ふたりが、フランス人の麻薬
シンジケートを追いつめる。
言葉にすれば、たったそれだけのストーリー。
いたってシンプルだ。
だが、シンプルだからこその力強さが
全編をつらぬいている。
映画の中で、刑事側、犯人側それぞれの
周辺事情などは、ほとんど描かれていない。
刑事が持つ過去のトラウマが顔をのぞかせる
こともない。見えているのは、

刑事が犯罪の匂いをかぎつける

追う

逃げる

追う

逃げる

ラスト

という展開のみ。
今目の前で起こっていることが、全てなのだ。
それゆえに画面には、ただならぬ緊張感が漂い、
一瞬たりとも目が離せない。
映画は少々意外な形のラストを迎えるが、
それも「これが全てだ。どう判断するかはあなただ」
という製作者側のメッセージのようにも思える。

若いジーン・ハッックマンが、走って走る姿には
びっくり!(笑)
後に数々の後継を生んだ、列車をからめた
カーチェイスシーンは息を飲む迫力だ。
無許可で撮ったとの伝説もあるが、
もし本当であれば凄すぎる!
ハックマンとロイ・シャイダーとのかけあいも
味があり、バディ(相棒)物としても楽しめる。
ちなみに舞台をフランスに移してのパート2も
製作されている。

それにしても、監督のフリードキンは本作の
数年後にはあの「エクソシスト」を撮るわけだが、
アクションからホラーまで何と幅広い職人芸を
持った監督だろうか。



■個人的ハマリ度 ★★★★(★5つが最高)
 
タイトル: フレンチ・コネクション DVDコレクターズBOX

「斬新」の賞味期限

【勝手にしやがれ】

<1959年・フランス>
●監督/ジャン・リュック・ゴダール
●出演/ジャン・ポール・ベルモンド、
    ジーン・セバーグ 他


ヌーヴェルヴァーグの旗手、
ゴダールの衝撃のデビュー作。
もちろん作品名も、ゴダール作品がもたらした
映画界への影響の大きさも知ってはいた。
でも、なんとはなしにこの手の作品って、
辛気くさくておもしろくないだろうなという
先入観があって敬遠していたのだ。

今回見てみて、その推測が外れていたことを実感。
主人公の男が犯した殺人からの逃避と、
それを追う警察という図式がもたらす緊迫感。
フランス映画らしい、おしゃれでいて、
どことなく哲学めいた男女のセリフのやりとり。
なかなか最後まで飽きる事なく見れた。
アメリカ娘を演じた女優、ジーン・セバーグも
すごくチャーミングだ。

しかし残念ながら、革命的と言われる
この映画の斬新さに驚くことはなかった。
撮影所ではなく、街頭を舞台に手持ちカメラで
ドキュメンタリーのごとく撮られた映像。
ほんとに脚本があるの?と思わせる
即興的なセリフと演技。
ジャンプするごとく素早く切り替わるシーン。
それらは全部、どこかで何度も見たようなもの。
考えたら当たり前だ。
ゴダールがあみ出した数々の手法は、その後、
ハリウッドのニューシネマへと受けつがれ、
映画界はもとよりテレビの世界へも広がり、
映像世界ではもはや日常の
ひとコマになっているのだ。
現在でもタランティーノなどは、かなりゴダールの
影響を受けているように感じる。

だから、長年に渡ってその手の映像の洪水を
浴び受けてきた僕たちの世代が、
いまさらその原点を見て衝撃を受ける、
なんてわけはないのだ。
これはもう、どうしようもない。
ただ半世紀近くも前に、この映画を
リアルタイムで見た人が受けた
ショックは想像できる。
それを考えると、ちょっとうらやましくもある。
「この映画、当時すごかったんだろうなあ」
と、頭で考えて見るのと
「うわ、こんなの見たことない!すげえ!」
と、ハートで感じるのとでは天と地の差だ。

CG全盛の昨今、CGなどまだ夢だった時代の
映像革命に触れてみるのもいいかもしれない。


■個人的ハマリ度 ★★★(★5つが最高)
 
タイトル: 勝手にしやがれ