戦後の陰、人の闇。 | 映画ジャンキーのつぶやき

戦後の陰、人の闇。

【飢餓海峡】

<1965年・日本>
●監督/内田吐夢
●出演/三國連太郎、判淳三郎、左幸子 他


水上勉の原作を巨匠、内田吐夢監督が映像化。
邦画の歴代人気ベスト10などでは、必ずと
いっていいほど上位に入ってくる名作だ。
強烈なタイトルは、以前から知ってはいたが、
ようやく見ることができた。
うわさに違わぬ圧倒的な完成度。
激動の戦後を背景にうごめく、人の愛とエゴ。
3時間があっという間だった。

1946年、青函連絡船が嵐で沈没し、
多数の死者が出る。
しかし収容された遺体の数を、乗客名簿と
照らし合わせると、なぜか2人多い。
警察は、そこに混乱に乗じた別の殺人事件が
絡んでいると見て、捜査に乗り出す…
この冒頭のシークエンスが抜群にいい!
原作の力もあるだろうが、混沌とした戦後の
空気が映像全体を覆っていて、
いきなりその世界に引きずり込まれるような
感覚を覚える。

刑事役の判淳三郎は、飄々とした中に、
確固たる意思の強さをにじませる。
犯人役は三國連太郎。最近はもっぱら
「釣りバカ日誌」のスーさんのイメージが
強いが、若かりしその姿の渋いこと!
大阪弁を使う大男を存在感たっぷりに見せる。
そして忘れてはならないのが、10年に渡って
犯人を恋慕う遊女を演じる、左幸子。
彼女の映画はほとんど見たことなかったが、
悲しい女の性を、独特の語り口と変幻の表情で
見事に演じ切っている。
他に高倉健も刑事役で出ているのだが、後年の
彼の印象からすると、驚くほど影がない。

映画は函館、東京、そして舞鶴と
スケール大きく展開する。
この物語は、犯人を追う刑事と、逃げる犯人の
ミステリーではあるのだが、
映画のテーマはそこではなく、戦後という
時代が持つ陰と、そこを生きる人間の闇に
あるのだろう。そして、その時代ゆえに
背負わざるを得なかった、罪と罰。

映画のラストシーン、思わず「あっ」と声が出た。
この衝撃的なラストが、本作をさらなる
名作に仕上げているのはまちがいない。
寒々と、どこまでも広がりゆく海原が
頭から消えない。


■個人的ハマリ度 ★★★★(★5つが最高)
東映
飢餓海峡